ルース・ソーヤー/作 岸野 衣里子/画
上條 由美子/訳
福音館書店 2020年10月
対象年齢:小学校低学年~
人は大人になっていろんなことを知ります。
子供の頃はみんな一緒だと思っていたのに、成長するに従い生活環境の違いを思い知らされたり才能というものについて考えさせられたりします。
そして立ちはだかる現実……。
才能なんて1%で、99%が努力と言い聞かせられてひたすら頑張って生きますが、生活するために費やす時間に追われて努力する時間すら取れない人は少なくありません。
手近なところで折り合いをつけ「幸せなんだ」と納得させるひたすらな日々。
産まれた時すでに違うのなら……
せめて、このひたむきな幸せを壊さないでほしい。
クリスマスの名作絵本「クリスマスの小屋」紹介します。
クリスマスの小屋/ルース・ソーヤー

思い描く夢は何でしょう。
上手くいかないのが何故かはわかりませんが、……やっぱり今を信じてひたむきに生きます。
この絵本の主人公は町いちばんの美女で働き者です。けれども、彼女に言い寄る男性は1人もいません。なぜなら彼女は「いかけ家」という流れ者が町に置いていった赤ん坊だったからです。
汗が気持ちイイからひたむきに働く
主人公の女性は、その家に預けられてから一生懸命に働きました。その家だけでなく、近所の家で人手が足らないとなればそこでもまたひたむきに働きました。とにかくひたすら働いたのです。
働くことで恩返しをしようと思っていたわけではありません。ただ働くことが好きで、働いている自分が好きだったからです。
器量よしで働き者の彼女は皆に喜ばれ大切にされました。けれども、どんなに頑張っても居候……、
大切にされても優しい言葉をかけられても、他人行儀の「してもらってる」感がつきまとうのです。
自分の居場所は……
やがて彼女は、自分の家が欲しいという夢を抱き始めます。
それからずっと、その夢を支えにひたむきに働き、生きました。
いかけ屋の置いていった赤ん坊という理由だけで、お嫁にいけないままずっとずっと働きました。
いつか自分の家に住みたいという夢を支えに。
そしてクリスマスがやってきます…………………………。
原作はアイルランドの民話
再話をしたルース・ソーヤーはアメリカを代表するストーリーテラーです。
幼少時にアイルランド出身の乳母からたくさんの昔話を聞いて育ちました。
この話はアイルランドを旅した際に伝え聞いた民話のひとつ。
岸野衣里子の柔らかい絵が見事に調和し、胸の奥にじんわり染みます。
クリスマスの夜にどう過ごす?
クリスマスの夜をどう過ごすかは人それぞれでしょう。できるなら誰かと祝い美味しいものを食べたいと思います。今年それができなくても、来年こそ、いつかは、と思い描く方はおおいのではないでしょうか。
降り積もる雪など眺めながら、心温まる本を読みながら、美味しいワインを飲みながら。
そんなにしっとりと素敵なクリスマスの読み聞かせにピッタリの絵本です。
ルース・ソーヤーとは?
1880年~1970年
アメリカの児童文学者。民話の研究と普及、児童図書館での読み聞かせの普及の他、作品も多数。
1936年にはニューベリー賞を受賞。
1942年に発行した「ストーリーテラーへの道」は語り手たちのバイブル。

ルース・ソーヤーの他の本
義理の息子ロバート・マックロスキーが挿絵を描いた軽快な物語。開いたどのページからも口笛が聞えて来そう。コールデコット賞受賞作品。
ジョニーのかたやきパン (大型絵本) [ ルース・ソーヤー ]
ルース・ソーヤーの他にアトリーやエインズワースなど9人の作家の短編集。クリスマスにまつわる心温まる話。
わかりやすい挿絵とストーリー展開に大人も子供もぐんぐん引き込まれます。